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オバサンになった彼

marielvincenzi

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もう12時前だ、そろそろ電話を切り上げて

彼を寝かせてあげないと、と思っていたとき

何かを思い出したように彼が言った。



「ちょっとぉ、知ってた?」



ま、まるで、オバサンの口調じゃないか。



私の脳裏にクルクルパーマのヅラを被って

腰にエプロンとか巻いちゃって

大根が飛び出してる買い物籠をぶらさげた

彼の姿が浮かんだ。



もちろん実際は英語で言っているわけだが

私の翻訳機能を通すとそのような日本語に

変換されてしまうのだから仕方ない。



日本じゃぁ、そのひとことは

井戸端会議の始まりをその場に居合わせた皆様に

暗にお知らせして、どうぞご参加くださいと

お誘いするときに使うんだぞ、と

おしえるべきかどうか私は一瞬悩んだ。



彼はオバサン口調のまま続ける。



「ダイエーでね、オカラが売ってるのよ。」



あらっ、奥様、ワタクシそんなこと

全然存じ上げませんでしたワ。









話は去年の秋まで遡る。



彼がその当時働いていたのはワイキキにある

日本人オーナーが経営する

オーガニックカフェ

彼はそこでマネージャー兼シェフを勤めていたのだが

ある日のこと彼にひとつの使命が下った。



「日本ではどうやら オカラクッキー が

ブームになっているらしい。

カフェで販売するオカラクッキーを開発せよ。」



それまでオカラなんて見たことも聞いたこともない彼。



そういえば10年ほど前に何の拍子でか近所の豆腐屋で

オカラ買ってクッキー作ったっけなぁ、

いまいちだったけど。

と少しばかりオカラに関して知識と経験のある私が

彼に代わってレシピを考えた。



ミルクも砂糖も卵もなしのマクロビ的オカラクッキー。



材料の要はもちろんオカラ。

ここは「アロハトーフ」という地元で作った

豆腐まで売っているハワイだ、

きっとオカラもあるだろう。



と思ったら無かった。



いや、ダイエーで売ってはいた。

でもそれはすでに中にひじきやニンジンなどの

具材が控えめではあったが混入されており

多少味付けまでされてしまっている

クッキー作りの材料としては

有難くない代物であった。



でもオカラがなくちゃどうにもならん

と、その「卯の花もどき」になった

オカラを買い求め、閉店後のカフェのキッチンで

連日夜中までクッキー作りを楽しんだ。



「卯の花もどき」で果たしてどうなるか不安だったが

カラカラになるまで煎って水分を飛ばしてしまえば

なんとか使えそう。



魅惑的な味にしようと、何種類かのバリエーションを

試した。

パンプキン、ココア、オレンジシナモン。

混ぜるものによって焼きあがったときの食感が

微妙に変わってしまうので、分量の配分や

焼き時間などの調整を繰り返す。



そうやって二人で一緒に何かを作り上げていくこと、

私達はそれをいつも「プロジェクト」と

呼んでいたが、それは二人の絆を強くしてくれた。



ひとつの行程が進むたびにお互いがお互いを

褒めちぎる。



「キミのアイディアは最高だよ。」



「あら、ヒントをくれたのはあなたじゃない。」



とかなんとか、何でもいい、

あなたと今こうして同じ時間を共有していることの

幸せを伝えたい、

この瞬間に私はあなたといられて

世界一幸せな女なのだと言いたい、

ただ、それだけ。



結局オカラクッキープロジェクトはボツになって

しまったけれど、私達の中にはスウィートな

時間の思い出が残った。









オバサンは続ける。



「それがね、プレーンなオカラなのよ、

何にも入ってないやつ。

オカラって繊維が多く含まれているから

身体にいいのよね。」



こうして井戸端会議は夜中まで

続いたのであった・・・・・・





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Posted bymarielvincenzi

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